約 2,830,127 件
https://w.atwiki.jp/kairakunoza/pages/2101.html
Escape 第6話に戻る ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 7. (ゆたか視点) 春から夏へと移りゆく季節の、よく晴れた日のお昼前。 私は、みなみちゃんの別荘から、脱出することに成功していた。 「はあっ、はあっ」 自分自身の荒い息遣いだけが、いやに大きく聞こえる。 なだらかに下っていく小道が、森の間を縫うように続いている。 「こなたお姉ちゃん…… 」 絶え間なくわき上がってくる不安に押し潰されそうになりながらも、 最愛の人の名前を唯一の心の拠り所にして、必死で足を左右に動かし続ける。 「誰か、誰かいませんか? 」 こなたお姉ちゃんに助けを求めようと、人家や電話ボックスを 懸命になって探すけれども、道の両側に生えている高い木立に遮られて 見つけることができない。 既に、携帯電話は取り上げられていたから、このままではお姉ちゃんと 連絡を取ることができない。 「誰も…… いないの? 」 決して言ってはいけない言葉を口に出してしまう。 一体、ここはどこなのだろう? 別荘を抜け出した時は走っていたけれども、5分も経たずに息が上がってしまい、 今は荒い息をつきながら、よろめくように歩いている。 腕時計に目をやると、既に11時を回っている。 もう、かがみ先輩とみなみちゃんが戻ってくるころだ。 私が別荘を脱出していることを知ったら、直ちに追跡を始めることは確実だ。 次に捕まったら既に、狂気の沼地に足を踏み入れてしまったかがみ先輩に、 何をされるか分かったものではない。 しかし、鬱蒼とした森はそれほど長くは続かず、やがて視界が開ける。 眼前には青い海がひろがっていた。 「うそ…… 」 私はうわ言のように呟きながら、白い浜辺に向ってよろめくように歩く。 寄せては砕ける、輪廻のように続く波音が、私をひどく打ちのめす。 「あはは、どうして? 」 細かい砂粒の上にぺたんと座りこみながら、自嘲めいた笑みがこぼれ出る。 「ほんと、私って莫迦だよ」 つかさ先輩は、ことさら隙をみせて、逃亡という甘美な希望を与えた。 私は、策略を疑いながらも、別荘から逃げ出した揚句、 どこにも逃げることができないという絶望を味わうことになった。 あまりにも悲惨で滑稽なピエロだ。 私が拉致された場所は…… 小さな島だった。 前方は、どこまでも拡がる蒼い海、背後は緑に囲まれた小高い山だ。 山頂に近い所に、みなみちゃんの別荘が建っている。 背後を見ることはできないが、ここと同じような景色になっているに違いない。 これからどうなってしまうのだろう? 私は、もうすぐ捕まってしまうだろう。 喜んだかがみ先輩は、私を餌にこなたお姉ちゃんを呼びつけることは確実だ。 いや、既にこなたお姉ちゃんは、かがみ先輩から呼び出しを受けているかもしれない。 私は『絶対に』島から出られるはずはないのだから。 「こなたお姉ちゃん…… もういいよ」 私は、絶望に打ちのめされて砂浜に倒れこみ、小さくつぶやいた。 強い日差しが素肌にちりちりと差し込んできてひどく熱い。 「私、全然駄目だから」 埼玉から名古屋に来ても、全然変わることができない。 半年経っても、こなたお姉ちゃんの大きなお荷物になってしまっている。 こなたお姉ちゃんは、私という存在が足かせになって、幸せを掴むことができないでいる。 「こなたお姉ちゃん…… もう、見捨ててもいいよ」 『そんなこと…… できるわけない! 』 こなたお姉ちゃんの怒った顔が、脳裏に鮮明に浮かんだ。 『私がゆーちゃんを見捨てるなんてありえないよ! 』 こなたお姉ちゃんは、私を見捨てることはしないと、絶対の自信を持って言える。 でも。だからこそお姉ちゃんは、かがみ先輩の卑劣な脅迫に応じることになってしまうのだ。 そして、悲痛な表情で姿をあらわしたこなたお姉ちゃんは、 『目出度く』かがみ先輩のものになるんだ。 暗黒の未来図が、現実のものになる瞬間が確実に近づいている。 「わたしは…… 」 波が砂浜を叩く定期的な音を鼓膜に届かせながら、私は小さく呟く。 私は、こんな酷い目に遭う為に名古屋まで逃れてきたのだろうか? どうして、かがみ先輩があげる凱歌を、黙って聴いていなければならないのか? 心の中に暗い怒りの火が付き、瞬く間に激しく燃え上がる。 私は、負けない。 かがみ先輩の思い通りなんか、絶対にさせるものか! 慣れない強行軍で激しく体力を消耗し、疲労の極にあったけれど、気力を振り絞って 小さな身体を引き起こす。 困難な状況を打開する手掛かりになるものがないか、必死に探しながら海岸を歩く。 「何か、落ちていないか? 何かを見落としていないか? 」 島を4分の1周程歩いた時…… 絶望に打ちひしがれていた時には、絶対に目に入らないモノが見つかった。 「あ…… 」 島に最初から置かれていたのか、どこか別の場所から流されていたのかは分からない。 古びた小さな手漕ぎボートが波打ちぎわに放置されていた。 「オールは? 」 駆け寄って、上から覗き込むと、2本のオールがボートの中にしまわれていた。 それから、船腹を注意深く調べる。 幸いなことに航行に支障となるような、大きな傷はない。 私はほんの小さな可能性にかけて、砂浜に乗り上げているボートを、太陽の光を浴びて いたるところで煌めく、初夏の海に向かって押し出す。 「お願い…… 動いて…… お願いだからっ 浮かんで! 」 両足を柔らかい砂にめり込ませながら、懸命に踏ん張って、船を押し続ける。 「もう少し…… もう少しだから」 体中から汗を噴き出させながら力を振り絞ると、船はじりじりと 海に向かって滑り出していく。 「やったあ! 」 奮闘は報われて、船体は砂浜を抜け出して、海面に浮かぶ。 私は船べりを掴んで、半ば飛び込むようにボートに乗り込む。 「きゃっ」 船は大きく揺れて傾き…… 辛くも復元力が働いた。 胸をなで下ろした私は、二本のオールを船の両側に固定すると、グリップを掴んで、 先端の平らな部分である『ブレード』を海面に落とす。 ちゃぷん。 小さな音が鳴ると同時に、オールを思いっきり握って手前に引く。 ブレードが海水をしっかりと捕えて、ボートは『後ろ』に滑るように動き出した。 「はあ…… はあ」 腰や腕がきしむように痛い。 疲労が全身を絶え間なく襲って、身体がうまく動かない。 いつも思うことだけれども、自分の体力の無さに辟易としてしまう。 体調さえ良ければ、しっかり運動をして、身体を鍛えないといけない。 ごくゆっくりとではあるが、船は岸から離れていく。 目指す場所は、1キロほど離れたところに佇んでいる、比較的大きな島だ。 遠目からは微かに建物らしきものが見えるから、そこでこなたお姉ちゃんと 連絡をつけることができるはずだ。 風はほとんど吹いていないため、波は小さく、海面は穏やかな表情をみせているけれど、 船はとても小さいので、僅かなうねりでもぐらりと揺れて、ひやりとする。 「ゆたか! 」 唐突に私の名前が呼ばれて、私は身体を震わせる。 先を行くチェリーに引っ張られたみなみちゃんが、浜辺に駆け寄ってくる姿が見える。 「ゆたか! 戻って! 」 みなみちゃんは、服が濡れるのも厭わず、長い脚を海に浸しながら必死の形相で呼びかける。 二人の距離は100メートル程だ。 地上ならわずか十数秒で到達してしまうが、海水浴のシーズンではない時期の海では、 絶望的な距離になる。 「ごめんね。みなみちゃん」 私は、ひとりごちると同時に、背筋に冷たいものを感じてしまう。 もう5分早く、鼻の利くチェリーが私を発見していたら確実に捕まっていた。 「お願い。来ないで」 追いつけないと分かっていても、不安から逃れるように、みなみちゃんの顔を凝視しながら、 私はひたすら漕ぎ続ける。 素人がボートを漕いでも、進む速度はたかがしれているが、それでも、じりじりと離れていく。 「ゆたか! お願いだから戻ってきて! 」 みなみちゃんの声が少しずつ小さくなる。 「本当に、ごめんね」 私は、みなみちゃんにもう一度だけ謝った。 去年の春、気分が悪くて苦しんでいる私を助けてくれた、岩崎みなみちゃんと 一緒のクラスになれた時はとても嬉しかった。 みなみちゃんとの距離が近づく度に、私の胸は確かに高鳴っていた。 高校で親友という存在ができたことが嬉しくて、毎日、学校に行くことがとても楽しかった。 病は気から、という訳ではないけれど、体調が比較的安定していたのは、 みなみちゃんのお陰だと思っている。 夏以降、私がこなたお姉ちゃんに恋心を抱いてからも、みなみちゃんは大切な親友のはずだった。 しかし、私はとてつもなく鈍感だった。 私がこなたお姉ちゃんに抱くのと同じ想いを、みなみちゃんが 私に対しても持つという可能性に、愚かにも気がつかなかった。 だから、みなみちゃんが愛を求めてきた時、私は激しい違和感を持って、 拒絶することしかできなかった。 しかし、年末に起こった一連の騒ぎの後、住所を名古屋に移してから半年が経って、 みなみちゃんは遠い存在になっていた。 こなたお姉ちゃんに対する妄執をみせる、かがみ先輩には、 激しい怒りや憤りを抱き続けなくてはいけなかったけれど、みなみちゃんに対しては、 さほどマイナスの感情は持っていない。 とても綺麗で頭が良くて、他人に優しいのだから、みなみちゃんは私なんかに拘らずに、 良い恋人を見つけてほしいと思う。 みなみちゃんの姿がかなり小さくなってきた。 腰まで水に浸かりながらも、なおも懸命に私に呼びかけるけれども、 泳ぎでもしない限りは、近づくことはできない。 私は、拘りを捨て去ることができない、以前の親友に向かって、微笑みながら軽く手を振った。 「ゆたかっ、行っちゃダメ! お願いだから! 」 普段は無口なみなみちゃんが、声をからして叫んでいる。 しかし、私は彼女の想いに応えることができない。 「ばいばい、みなみちゃん」 私は、少しだけ哀しそうに呟いてから、みなみちゃんから視線を外して、 小さな船を漕ぎ続ける。 ボートはごくゆっくりとしか進まないから、すぐに彼女の姿が視界から 消えてしまった訳ではない。 しかし、すっかり小さくなったみなみちゃんを、私は最早、景色の一部分としか認識していなかった。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― Escape 第8話へ続く コメントフォーム 名前 コメント 逆にbadendでも良いかも 最近無理やりhappyendに持ち込んでるのが多々あるし。 この作品は非の打ち所がないやねww -- 名無しさん (2008-06-02 23 11 03) 一体何処の島に誘拐されたのか島から町に行くのは良いとして ゆーちゃんは果たしてこなたと無事再会できるのか凄く気になり ます。ゆーちゃんにHAPPY ENDが訪れることをキボン それにしてもこのシリーズはとても読みごたえがあって面白い (=ω=) -- 九龍 (2008-06-01 00 37 33)
https://w.atwiki.jp/switchsoft/pages/2967.html
Escape First 脱出ゲーム 3Dパズル 499円税込2.5GB "Escape First" は3Dパズルゲームです。 部屋に閉じ込められたプレイヤーは、時間切れになる前に脱出するために謎を解かなければなりません。 ゲームは3つのレベルに分かれている。 [u][b]Psycho Circus[/b][/u] 「デ・ラ・ルナ」で素晴らしい演技を見た後、ピエロの部屋に閉じ込められた。 数分後に彼らの演技は終わる。戻ってくる前に呼びの鍵を見つけて逃げ出すことはできるのか。 ピエロは他人に邪魔されるのが嫌いなのは誰もが承知だ。 [u][b]The Red Button[/b][/u] 部屋、扉、そして血のついたナイフ。一体何が起きているのか。昨晩何が起きたのか。 知る必要がある。でも本当に知りたいのか。とりあえずでなければならない。 気をつけてくれ。何があっても赤いボタンを押すな。 [u][b]Lost In Time[/b][/u] あなたは宇宙時間に関する研究に参加した。間違えてカオスに閉じ込められた。 なんと、過去、現在、そして未来が一つに合体したのだ。 あんたの最大の敵は時間だ。現実が失われる前に取り戻すことができるのか。 アドベンチャー なぞ解き メーカー OnSkull Development 対応言語 日本語,フランス語,ドイツ語,イタリア語,スペイン語,韓国語,ポルトガル語,ロシア語,中国語 (簡体字),英語 配信日 2021年1月14日 IARC_GENERIC 7+ 恐怖を引き起こすコンテンツ 対応ハード Nintendo Switch サラウンド(リニアPCM) セーブデータお預かり 対応 対応コントローラー Nintendo Switch Proコントローラー, プレイモード TVモード, テーブルモード, 携帯モード プレイ人数 1 人 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/aniwotawiki/pages/25879.html
登録日:2012/06/18(月) 17 55 39 更新日:2024/08/03 Sat 08 11 08NEW! 所要時間:約 2 分で読めます ▽タグ一覧 City_Escape シティエスケープ スケボー ステージ ソニック ソニックアドベンチャー2 ソニックシリーズ ソニック・ザ・ヘッジホッグ ハイスピード逃走アクション バトル 初見殺し 第1ステージ 『City Escape(シティ・エスケープ)』とは、DC『ソニックアドベンチャー2』、GC『ソニックアドベンチャー2バトル』に登場するステージ。 ソニック、テイルス、ナックルズを主人公とするヒーローサイドの第1ステージで、攻略キャラは我らがソニックが務める。 GUNに捕らえられ、輸送機によって、上空を飛んでいたソニック。 しかし、 「機内上映も機内食もないんじゃねぇ……」 と、輸送機を脱出。 「やめろ、早まるな!こっちに来るんだ!」 というGUNの制止も聞かず、 俺は走る方が好きなのさ! と、輸送機の部品(壊した扉?)をさながらスケボー代わりにして地上へ逃走。 ヒーローサイドのストーリーはこうして幕を開ける。 【ステージについて】 最序盤は上の流れから、街中の下り坂をスケボーで疾走する。 ジャンプ台でタイミング良く飛ぶとスコア稼ぎとタイム短縮を狙える。 裏路地のような場所に入ると、手すりを使ったグラインドアクションで長い階段をツーッと滑れる。 バランスをとるのにややコツがいるが、ソニックらしくクールかつハイスピードで決めたい。 「バウンドリング」を手に入れてからここでソニックスーパーボールをしたのは多くの人が通る道。 終盤では音楽と視点が変わり、GUNの巨大トラックが道の車を吹き飛ばしながら追ってくる。 そしてソニックに体当たりをぶちかまそうとしてくる。 お前らが一番迷惑だろ。 視点がソニックを前から見た形になり、手前に向かって走るので障害物に引っかかったり、リングを取りこぼしやすい。 また、ジャンプ台もあるが初見で飛ぶのはまず不可能。 第1ステージということもあり、難易度は比較的マイルドだがBGMであるTed Poleyの「Escape From The City」が聴いてて気持ち良いくらい爽やかで、先のステージでアイテムを手に入れてから再び来ると新たな発見があるなど、何度もプレイしたくなるステージである。 ちなみに5thミッションのハードモードではジャンプ台の位置など細かい場所が変わる。 追記・修正はCity Escapeの全ミッションでAランクを取った人がお願いします。 △メニュー 項目変更 この項目が面白かったなら……\ポチッと/ -アニヲタWiki- ▷ コメント欄 [部分編集] 英語なのに「Escape From The City」の歌詞を覚えて口ずさむくらい何回もやったなぁ。リングの位置やジャンプ台の位置も感覚で覚えてたけど何年もやってないからもう無理だわ -- 名無しさん (2013-12-08 10 55 45) ソニジェネ白での内容も記入してほしい、特にモダンステージのGUNトラックの改造度がハンパない。 -- 名無しさん (2014-03-22 22 19 37) スマブラWiiUにBGM収録 -- 名無しさん (2014-11-22 20 50 24) AGDQとかのイベントだと流れた瞬間に合唱してたりする -- 名無しさん (2015-02-11 10 53 24) 扉というには細すぎるから、あれってやっぱヘリのプロペラじゃない?普通にやったら手首がスライスされるけど… -- 名無しさん (2016-10-11 16 21 22) 小学生中学年の頃、ここからソニックが好きになった。 最近動画で見ているだけだけど -- 名無しさん (2016-10-27 14 13 39) 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/gamemusicbest100/pages/7985.html
ZERO ESCAPE 刻のジレンマ 機種:3DS,PS4,PSV,PC 作曲者:細江慎治 発売元:スパイク・チュンソフト 発売年:2016年(3DS,PS4,PSV)、2017年(PC) 概要 「極限脱出」シリーズの3作目にして完結編。 前作までとは若干異なり、3つのチームに分かれたアドベンチャーパートと、謎を解いて部屋から脱出する脱出パートを交互に繰り返しゲームを進めていく。 作曲は引き続きスーパースィープの細江慎治氏が担当。 サントラは予約特典として付属していたが未収録の曲が複数ある。 収録曲(1部) 曲名 作曲・編曲者 補足 順位 Zero Times 細江慎治 オープニングテーマ Quondam Monitors Ustulate Pathos Tough Decision Trash Disposal Glacial Solitude Transient Tranquility Unliberated Library Nostalgic Scenery Sacrificial Demise Extreme Urgency Interminable Dilemma
https://w.atwiki.jp/catnap222/pages/276.html
Metroid Escape 1st 関連リンク 攻略情報 評価 アンケート 総合評価を投票してください。 選択肢 投票 ★★★★★ (0) ★★★★☆ (0) ★★★☆☆ (0) ★★☆☆☆ (0) ★☆☆☆☆ (0) ☆☆☆☆☆ (0) 感想&レビュー等 名前 コメント plugin_back is not found. please feed back @wiki.
https://w.atwiki.jp/kairakunoza/pages/2159.html
Escape 第8話に戻る ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 9. (かがみ視点) 「こなた」 私は列車から降りた少女に、恐れと期待の両方を抱きながら声をかけた。 「…… 」 長い髪を伸ばした少女から注がれる視線は憎しみが籠った熱さではなく、軽蔑と憐みが混じった冷たいものだ。 予め覚悟はしていてもやはり辛い。 「ゆーちゃんは何処? 」 腕を伸ばせば届く位置まで近づいてから、こなたは暗い表情を浮かべて口を開いた。 「ゆたかちゃんは、電話で話した通りに逃げたわよ」 プレッシャーで膝が小刻みに震えながらも、何とか言葉を口に出す。 「狭い島に逃げてもすぐに捕まえられると思った? 籠の鳥を、窓と扉が閉まった部屋に逃がして 追い詰めるのが楽しい? 」 こなたが更に踏み込んできて睨みつける。私に対する敵意は以前より明らかに高まっている。 身の毛がよだつような恐怖と、想い人の視線を独占できるという狂った快感によって、 身体の奥から熱いとろりとしたものが染み出し、下着がぬれる。 「こなた。アンタ、ゆたかちゃんを過小評価してるんじゃないかしら」 こなたを誰よりも愛しているはずなのに、独占欲で周囲が見えない癖に、冷笑と皮肉を混ぜたような 言葉しか出すことができない。 どうして、こんなにもひねくれてしまったのだろう? 「過小評価って…… どういうことさ?」 いぶかしげな表情を浮かべながら尋ねる少女に、既に救われない程に歪んでしまった私は、 愉しげな表情を作って教える。 「ゆたかちゃんは、ボートで島から脱出したのよ」 「えっ!? 」 こなたは、瞼を大きく見開いた。 「そんな…… ゆーちゃんが? 」 傍から見ても、明らかに動揺しているこなたを眺めていると、寵愛を一身に受けるゆたかちゃんに、 あらためて嫉妬と憎しみを覚えてしまう。 「私も、みなみちゃんから聞いた時はびっくりしたけどね」 私は、荒れ狂う心を懸命に抑えながら、平静を装い続ける。 「今頃、隣の島に上陸しているはずよ。こなた、ゆたかちゃんから連絡はなかったの? 」 「あ…… 」 呆けたような反応をみせた後、慌ててバッグの中から取り出した携帯の履歴を調べ出す。 「なかった…… 」 こなたは明らかにほっとした様子で呟いた。 私たちと会う前に、ゆたかちゃんから発信されたSOSに気づかなかったとしたら、 悔やんでも悔やみきれないはずだ。 「こなた。今から篠島にゆたかちゃんを迎えに行くわよ」 「え!? 」 こなたらしくない鈍い反応にイライラしながらも、私はけしかける。 「ゆたかちゃんに会いたくないの? 」 「会いたくないとでも思っているの! 」 見え見えの挑発に反応したこなたは、低い唸り声をあげた。 「どんな思いで! 私が! ゆーちゃんのことを! 」 激昂して、胸倉を掴みかけて…… 静止する。 「どうしたのよ? 」 こなたは、私の問いかけに反応することはなく、真っ青になりながら震え続ける携帯を見つめていた。 西の空を茜色に染め上げながら、太陽が水平線の下に隠れた頃―― 一旦は、篠島に逃れたゆたかちゃんを、あっさりと捕まえた私たちは、みなみちゃんの別荘に戻った。 途中でこなたが暴れて、ゆたかちゃんと一緒に逃げだすことを心配していたけれど、 あきらめてしまったのか、抵抗を受けることはなかった。 「お久しぶり、こなちゃん。ゆたかちゃん」 みなみちゃんの別荘に戻ると、至極上機嫌な表情で、エプロン姿のつかさが迎えてくれる。 居間に入ると、大きなテーブルにところ狭しと料理が並べられており、幾つかは湯気を立てている。 「みんな。席についてね」 食前酒をグラスに注ぎながら、つかさは満面の笑みを浮かべている。 私は席につきながら周囲を見渡した。 私とこなた、つかさ、みゆきの3年生組と、みなみちゃんとゆたかちゃんの6人が一堂に会するのは、 昨年秋のチアの練習以来だ。もっともその時には、日下部と峰岸、田村さんもいたのだけど。 「ようやく、みなさんとお会いすることができて嬉しく思います」 みゆきが、場違いな所に迷い込んできた女神のような微笑みを浮かべながら、皆に向けて一礼する。 「いろいろ、お話したいことはありますが、まずは乾杯といきましょうか」 アルコールが入ったグラスを掲げながら、みゆきは音頭をとる。 「乾杯! 」 唱和の後に透明なグラスが触れ合い、鈴のような乾いた音が鳴り響く。 当然のことながら、こなたとゆたかちゃんは、私たちとグラスを合わせることはしない。 つかさが腕によりをかけて調理した、海鮮ものを主体とする料理の味は素晴らしく、 しばらくの間、全員が食べることに専念していた。 テーブル上の料理もあらかた片付き、一心地がついた頃。 「みなさんの、近況を教えていただけませんか? 」 みゆきは、つかさの方を向いて尋ねた。 「私は、料理の専門学校に通っているよ。まだ基本的なメニューしか作らないけど」 つかさは、のほほんと笑いながら答えている。 「私は志望大学の医学部に進学することができましたが、まだ座学がほとんどです」 みゆきは穏やかな口調で、始まったばかりの大学生活を皆に伝える。 「入学して2か月も経過していないから、専門的な事を学んでいないのは私も同じよ」 私もグラスを片手で持ち上げながら言った。 法学部に入っても、初年度は、半分程度は法律と関係ない一般教養科目を選択せざるを得ない。 法曹界に入るには、大学卒業後に法科大学院に行かねばならないが、 学費の高さと合格率の低さを考えると、躊躇せざるを得ない。 「みなみちゃんはどうなの? 」 つかさは、興味深げな視線を寡黙な少女に向けた。 彼女は暫く沈黙を保った後、ぽつりと呟くように話す。 「さほど変わった事はありません」 「2年でも、田村さんやパティちゃんとは同じクラスなの? 」 「はい…… 」 みなみちゃんは、あまり関心がない様子で頷いた。 あくまで想像に過ぎないが、みなみちゃんにとっては、ゆたかちゃんがいなくなった去年の12月から、 時間が止まっているのかもしれない。 「泉さんは、どうなのですか? 」 みゆきが何気ない調子で話を振る。 「フリーターだよ」 「そ、そうですか」 あまりにもつっけんとんな返事に、みゆきは戸惑っている。 「もうこれ以上、追いかけまわさないで貰えると嬉しいんだけど」 サーモンステーキにナイフを入れながら淡々と言って、周囲は重い沈黙を強いられる。 「今のバイト先、無断欠勤で首になったら、責任とってくれるのカナ。カナ」 しかし、こなたは私をまっすぐと見つめながら、言葉の弾丸を容赦なく撃ち込んでいく。 「こ、こなた、私は…… 」 息が詰まる。言葉が詰まる。舌を上手く回すことができない。 こなたは、ずっと敵意しか向けてくれない。 「ねえ。かがみ…… 」 もがき苦しむ私を冷然と眺めながら、こなたはナイフとフォークを置いて席から立ち上がる。 「な、なに? 」 私は狼狽した。 ゆっくりと近づいてくるこなたを思いっきり抱きしめたいという欲求と、一刻も早くこの場から 逃げ出したいという恐怖がぶつかり、一歩も動けない。 「どうして、私とゆーちゃんの平穏な生活を破壊するような事をするのかな? 」 「そ、それは…… 」 私は、『言い訳』を紡ぎ出そうとあがくけれど、言葉にのせることができない。 「お、お姉ちゃん? 」 ゆたかちゃんが、こなたの異常な様子に気づいて立ち上がる。 「ねえ。答えてよ。かがみ」 こなたは私の胸倉を掴んで、容赦なく捩じり上げる。 「や…… くる…… 」 強く締めあげられて、息がとても苦しい。 「泉さん!」 「こなちゃん! 」 みゆきとつかさが慌てて駆け寄り、こなたの後ろから抱きつき、引きはがしにかかる。 「HA☆NA☆SE」 こなたは声をあげて抗うが、二人がかりで背後から掴みかかれては勝ち目はない。 「ごほっ、ごほっ」 私はようやく、こなたから解放された。 床にはいつくばり、空気を求めてぶざまに喘ぐ。 「こなちゃん。落ち着いて…… 」 「落ち着けるわけないよ! 」 こなたの悲痛な叫びが部屋中に響き渡る。 「私がどんな思いで、遠く離れた場所に逃げたのか分からない癖に! 」 「わからないよ」 しかし、つかさは首を横に振っている。 「えっ!? 」 「こなちゃん。分かるわけないよ」 「何をいってんのさ」 こなたが振り返って、つかさを睨みつける。 つかさは普段とは別人のように真剣な表情に変わっている。 「こなちゃんは、いつまで二人だけの世界に閉じこもっているの? 」 小柄な少女は一歩、よろめくように下がる。 「そんなこと…… つかさには関係ないよ…… 」 こなたが目線をそらす。 「こなちゃん。本当にそう思っているの? 」 つかさが涙をためながらこなたに近づき、優しく抱きしめる。 「つかさ…… 」 しかし、こなたの表情はすぐに冷たいものに変わる。 「もう遅いんだよ」 小さなため息をついて、やるせなさそうな顔つきで言葉を続けた。 「みんながいくら私たちを追っても、私たちはもう別の生活をしているんだよ」 つかさから離れたこなたは、ゆたかちゃんの傍まで歩いて、強く抱きしめて、激しく唇を吸う。 「お、お姉ちゃん! 」 衆人環視の中でキスをされて、ゆたかちゃんの顔が真っ赤になる。 こなたは、私をまっすぐに見据えて宣言する。 「私は、ゆーちゃんの傍から離れない。いくらかがみが私を追っても無駄だからね」 真正面からの否定だ。 しかし、これくらいでひるむようなら、わざわざ埼玉から追いかけてこない。 「私はあきらめないわ」 傍から見たら明らかに私は、間違っていると思う。 しかし、こなたへの愛は、既に理性でどうにかなるものではなくなっている。 少なくとも「あの」狡猾極まりないゆたかちゃんにむざむざと奪われることだけは、 絶対に我慢することができない。 「かがみ…… 」 こなたが悲しそうな顔を浮かべる。 胸をかきむしるような苦しさに襲われるが、自ら選んでしまった破局への道を引き返すことは 不可能になりつつある。 「もう、いいよ」 こなたがとても辛そうにいうと背中をみせた。 「お、お姉ちゃん? 」 ゆたかちゃんが心配そうな表情で、こなたを見つめている。 「ゆーちゃん。部屋に戻ろう」 ゆたかちゃんの頬をそっと撫でてから、とても疲れた様子で歩きかけて―― ゆっくりと床に崩れ落ちる。 「お姉ちゃん! 」 ゆたかちゃんの悲鳴があがる。 みなみちゃんとみゆきは青ざめて、互いの顔を見あっている。 私は、床に不本意な口づけを強いられている少女の傍に駆け寄って膝をつくが、 直後に背後から奇妙な気配を感じて振り返り、愕然とした。 私とほとんど同じ時間に生まれた妹が、満足そうな微笑みを浮かべて佇んでいた。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― Escape 第10話へ続く コメントフォーム 名前 コメント つかさが何かをたくらんでいるのか分からないから恐い、ブラック つかさ降臨。今回も素晴らしい作品ご馳走様(何 -- 九重龍太 (2008-06-18 22 58 37) つかさ……だと……? -- 名無しさん (2008-06-18 01 53 46) つかさ黒いよぉー -- 名無しさん (2008-06-18 00 54 08) つ・・・つかさ? -- 名無しさん (2008-06-17 23 33 43)
https://w.atwiki.jp/catnap222/pages/529.html
Super Metroid Escape 概要 初めまして、ひろいしといいます。 初めて制作したのでいろいろ至らないところがありますが 楽しんでいただけたらと思います。 詳しくは「Read Me」をお読みください。 by ひろいし氏 関連リンク 改造スーパーメトロイドWiki http //smethack.f5.si/?%A5%A2%A5%C3%A5%D7%A5%ED%A1%BC%A5%C0%2FSuper%20Metroid%20Escape 攻略情報 攻略動画 評価 アンケート 総合評価を投票してください。 選択肢 投票 ★★★★★ (2) ★★★★☆ (0) ★★★☆☆ (1) ★★☆☆☆ (0) ★☆☆☆☆ (0) ☆☆☆☆☆ (1) 感想・レビュー等 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/hmiku/pages/18940.html
【登録タグ CD CDE 糞田舎PCD】 前作 本作 次作 entrance escape from t.w. - 糞田舎P 流通 即売 同人 発売 2011年11月19日 未定 価格 ¥1,000 未定 サークル ティロ・フィナーレ新百合ヶ丘 CD紹介 糞田舎P の 2nd album 。 新曲4曲を含む、全12曲。1st では未収録だった数々の過去曲もリテイクで収録。 イラスト・アートディレクションは katano氏 が手掛ける。 THE VOC@LOiD M@STER 18(ボーマス18) にてリリース。 曲目 Trash World GREEN SHIP アフターナイト ワンダーランド ピースフルデイズ LOVE PLANET half asleep ケーキコレクション mono scarlet 水域 ニセモノトレジャー アヤメ seven up diary リンク 作者ブログ サークルHP コメント 買ったけど本当に感動できる一枚だった -- 名無しさん (2011-11-23 23 41 16) 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/kairakunoza/pages/2133.html
Escape 第7話に戻る ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 8. (かがみ視点) 「かがみさん。そろそろ出発しませんか? 」 「そうね」 こなたを迎えに行くために腰をあげた時、みゆきの携帯電話が鳴る音が、部屋中に響き渡った。 「もしもし、高良です。みなみさんですか? 」 みゆきの表情が一瞬で変わる。 「みなみさん! しっかりしてください! 」 「どうしたの、みゆき? 」 焦燥に駆られて叫んでいるみゆきに向かって一歩踏み出した時、彼女は半ば放心したように呟いた。 「小早川さんが逃げた…… のですか? 」 私も驚いて、すぐ近くに寄って耳をすます。 『ゆたかは…… ボートで逃げたんです! 』 僅かに聞こえたみなみちゃんの言葉に、心臓が止まりそうになる。 「代わって! 」 「はっ、はい」 半ば奪い取るようにして、携帯を耳に押しつける。 「もしもし。柊よ」 『あっ…… かがみ先輩』 明らかに意気消沈した声が聞こえてくる。 「みなみちゃん。ゆたかちゃんは、『ボート』で海上に逃げたのね」 『私とチェリーが浜辺に着いた時は、ゆたかは…… 海の上でした』 みなみちゃんは、とても疲れた声で話している。 俄かには信じがたい話だが、嘘を言っているとは思えない。 虚言を弄する人間ではないと断言できる程、彼女の人となりを知っているわけではないが、 みなみちゃんが、今の状況で嘘を付くメリットが思い当たらない。 『もう少し早く見つけていれば…… 』 みなみちゃんは小さな声で後悔の言葉を口にする。 しかし、私の胸の奥底からわき上がった感情は悔しさではなくて、むしろ高揚だった。 (やるじゃない。ゆたかちゃん) 仮にも、こなたが好きになった女の子だ。 どんな絶望的な状況に陥っても、決してあきらめず、活路を見出してしまうところは称賛に値する。 単に可愛いだけで、めそめそと泣いてしまうような子を、こなたが気に入るはずはない。 「みなみちゃん。落ち着きなさい! 」 私は、激しく落ち込んでいるみなみちゃんを叱咤した。 「まずは、深呼吸しなさい」 『えっ!? 』 戸惑っているようだが、構わず続ける。 「大きく息を吸って」 空気を吸い込む音が微かに聞こえる。 「吐いて」 みなみちゃんの吐息は、はっきりと耳朶に届いた。 「少しは良くなった? 」 私は、笑顔をつくって問いかける。 『はい。すみません。かがみ先輩』 やれやれ。これでようやくまともに話ができる。 「ゆたかちゃんを最初に見たのは何時ごろかしら」 『それは…… 11時半頃です。その時にはもう岸を離れていました』 腕時計を覗き込むと、すでに12時半になっている。 「ゆたかちゃんは、何処に向かったの? 」 行き先の見当は、既についているけれど、慎重を期すためにあえて問いただす。 『ゆたかは、すぐ近くの島を目指しています』 「ここから一番近い位置にある島ね」 みゆきに頼んで、愛知県の地図を運んできてもらう。 私たちのいる島と、ボートに乗ったゆたかちゃんが向かいつつある島は、わずか1キロ程度しか離れていない。 「ゆたかちゃんは、『篠島』に向かったのね? 」 『ええ。おそらく』 篠島は三河湾の入り口付近にあり、知多半島と渥美半島の間にある有人島だ。 面積は約1平方キロメートル、全周は約9キロと、狭いが入り組んだ海岸線を形成している。 「まだ、ゆたかちゃんのボートは見えるの? 」 『ええ、微かに…… 』 「ゆたかちゃんとは、どれくらいの距離が離れているのかしら? 」 『はっきりしたことは分かりませんが、隣の島まで、半分程のところまでは達しているようです』 みなみちゃんは、普段の冷静さを取り戻して、状況を説明してくれた。 「そう」 私は頷いてから、頭の中で計算した。 1時間で1キロを半分ということは、1時間で500メートル程進んでいるということか。 彼女が篠島に着くには、あと1時間ほどかかるとみておけばいいだろう。 既に、私はこなたに対して、午後2時に名古屋鉄道の河和駅まで迎えにいくことを伝えてある。 「少し厳しいわね…… 」 今から待ち合わせの時間を変更することは、こなたに不審を抱かせるので好ましくはない。 では、こなたとの待ち合わせに遅れてでも、篠島に向かいつつあるゆたかちゃんを、 海上で捕えることを優先させるか? それとも、ゆたかちゃんは放置して、予定通りに河和駅に行ってこなたを迎えにいくか? 今すぐにみゆきに船を出してもらうとすると、船着場まではおよそ15分、 船を出す準備にも同じく15分ほどかかる。 更に、ゆたかちゃんのいる海域に到達するのには、10分から15分ほどは必要だ。 ゆたかちゃんの状況にもよるが、篠島に到達する前に、傍に近づくことはできるだろう。 しかし、海上にいる彼女を、レジャーボートから掬い上げることはかなり難しい。 とても不安定な手漕ぎボートに乗っているゆたかちゃんに、下手に手を出した場合、 ボートをひっくり返してしまいかねない。 船から人間を海上に落下させることは、少なからず死を意味することになり、危険極まりない。 それでは、海上を進むゆたかちゃんを無視して、こなたを河和駅まで迎えに行った場合はどうなるか? 待ち合わせ時間となっている午後2時までには、確実に着くことはできる。 しかし、上陸を果たしたゆたかちゃんが、こなたへの連絡に成功した場合、 こなたは河和駅に現れず、最悪、二人とも取り逃がすことになりかねない。 2つの案には、それぞれメリットと、デメリットがあるが、迷っている余裕は全くない。 「こなたを迎えにいくわ」 私は、電話口にいるみなみちゃんと、傍にいるみゆきに対して、はっきりと言った。 「つかさは留守番と、非常時の連絡役を頼むわね」 「がんばってね。お姉ちゃん」 つかさはにこやかに微笑んで、私たちを見送った。 別荘を出てからしばらく坂道をくだり、浜辺にでてみなみちゃんと合流する。 私たちは、桟橋に係留されているレジャーボートに乗り込んで、出航の準備を整えているみゆきを手伝う。 「みゆき。お願い」 「ええ。わかりました」 みゆきはうなずき、エンジンを始動させる。 レジャーボートはゆっくりと桟橋を離れ始めた。 今日の海はとても穏やかで、波やうねりはほとんどない。 「観光に来ていれば…… 素晴らしい景色を堪能できたのですが」 みゆきは舵をとりながら、少しだけ寂しそうな表情を浮かべた。 小型船は、雲ひとつない陽光の下、篠島、日間賀島を右手にのぞみながら、 左側に見える知多半島の先端に位置する師崎港を通り過ぎて、丘陵地帯が連なる半島の沿岸を進む。 空はどこまでも蒼く、強い日差しを受けた海はいたるところで輝きを放っている。 時折、カモメとおぼしき海鳥が近くを通り過ぎ、離れた場所では大型の貨物船が ごくゆっくりと航行している。 どこまでも綺麗で心が穏やかになる、平和そのものの光景だ。 もっとも、運命を狂わす一連の出来事が起こらなければ、純粋な観光として、 三河湾の入り口に佇む、風光明媚な島々を楽しむことができたのだが…… 心地よく吹き抜ける風に身をゆだねながら、過去を振り返る。 以前、私は、努力すれば大抵の事は何とかなると思っていた。 学校の勉強という狭い分野では、自分のやった事が、テストの成績という形で ストレートに反映されたからだ。 しかしながら、受験のための勉強は、人が学んでいくべき事のほんの一部に過ぎない。 恋愛という複雑で、理不尽極りない感情への身の処し方は、当たり前だが学校では決して教えてくれない。 私は、この半年間、何かに追われ続けるような強い焦りに苛まれていた。 単なる焦燥感ならば、実らない片想いを経験した者ならば、誰もが感じることだろう。 時が過ぎれば、ほとんどの人は失恋という事実を、単なるあきらめか、 甘酸っぱい思い出として、受け入れることができる。 しかし、こなたとゆたかちゃんが付き合っているという事を知ってからの、 私の行動は異常だった。 恋敵を攫い監禁した挙句、想い人を誘き寄せるエサに使うという、非道な振る舞いは 正気の人間がやれることではない。 私は、失恋を認めるということが、どうしてもできなかった。 自分自身の、決して広いとはいえない世界にとって、こなたの存在は全てに等しい。 泉こなたをあきらめて生きる事に何の意義を見出すこともできない。 こなたを失った後、抜け殻みたいな人生を送ることなど、とても耐えられる事ではなかった。 「かがみ先輩…… 泉先輩のことを考えていますか? 」 珍しく、みなみちゃんの方から声をかけてくる。 「ええ。あなたが、ゆたかちゃんの事を思っていたようにね」 私の物言いに、みなみちゃんは微かに口元を緩めた。 彼女が笑う姿はあまり見たことがないけれど、今の微笑みは、胸が苦しくなるほど綺麗だ。 「私にとって、ゆたかは太陽であり光です」 みなみちゃんは、私の瞳をまっすぐに捉えて、ゆっくりと語りかけてくる。 「私は、中学の時はとても無口で、いつも本ばかり読んでいる、他人との接点が薄い存在でした」 彼女は小さく溜息をついた後、言葉を続ける。 「しかし、ゆたかは私の全てを受け入れてくれました。 ゆたかだけが私を分かってくれていました。だから…… 」 みなみちゃんはとても辛そうな表情を浮かべて、重すぎる言葉の塊を吐き出した。 「ゆたかが私を想ってくれていると、勘違いしてしまいました」 瞼から熱いものが溢れ出して、頬をつたう。 「間違いに気づくことができなかった私は、ゆたかから完全に見捨てられてしまいました…… 」 たぶん、先程ゆたかちゃんを追っていた時に、何か最終的な事を言われたのだろう。 「もう、ゆたかちゃんをあきらめるの? 」 嗚咽がおさまるのを待って尋ねたが、みなみちゃんは何も答えなかった。 知多半島の沿岸を30分ほど北上すると河和港がみえてくる。 みゆきは慎重に船を操り、高速船の乗り場にほど近い場所にある桟橋に接岸した。 港から10分ほど歩くと、待ち合わせ場所となっている河和駅が見えてくる。 やや古びた駅舎に入ると、赤色の塗装を施した列車が静かに停まっていた。 私はベンチに腰掛けながら、腕時計を見つめた。約束の時間までには少し間がある。 「もう少しですね…… 」 隣に座るみゆきが話しかけてきた。 「そうね」 こなたと会う時間が近づくにつれ、鼓動が速まり、喉がカラカラに乾く。 私は、ポケットから白いハンカチを取り出して、無意味に開いては折りたたむ。 こなたは私をどんな目でみつめるだろうか? 少なくとも、旧友に対する穏やかな視線はないはずだ。 軽蔑という成分が含まれている瞳を向けられることに、私は果たして耐えきれるだろうか? 「かがみさん。少し…… 落ち着いてください」 「ごめん。みゆき」 私は謝って、くしゃくしゃになってしまったハンカチを仕舞った。 どういう結末を迎えるにしろ、まずは会って、話をしてからだ。 間もなく、列車が到着いたします。 スピーカーからアナウンスが降り注くと間もなく、電車がホームにゆっくりと滑りこんでくる。 「こなた、乗っているかしら? 」 「どうでしょう? 」 みゆきは、微かに首をかしげた。 私達3人の視線が集まる中、赤い塗装が施された列車は停まり、自動ドアが開く。 十数人の乗客がぱらぱらと降りてくる。そして―― 最後尾の車両から、蒼く長い髪をなびかせた少女が、ゆっくりと姿をあらわした。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― Escape 第9話へ続く コメントフォーム 名前 コメント 愛知県だったのかぁ。それにしてもゆーちゃんはどうなっちゃうのかな、かな 。かがみがだんだん壊れていくのがわかるね。また素晴らしいお話期待し てますよ。 -- 九重龍太 (2008-06-08 18 29 03)
https://w.atwiki.jp/cosmos_memo/pages/1361.html
ESCAPE Moon Child BASIC Level 4 BPM 165 Notes 195 全程BPM在165附近飄忽不定 1 口口口口 |----| 口口口口 |----| 口口口口 |----| 口口口口 |----| 2 口口口口 |①---| 口①口口 |----| 口口口口 |----| 口口口口 |----| 3 口口口口 |①---| 口口①口 |----| 口口口口 |----| 口口口口 |----| 4 ①口口口 |①---| 口口口口 |----| 口口口口 |----| 口口口口 |----| 5 口口口① |①---| 口口口口 |----| 口口口口 |----| 口口口口 |----| 6 口口口口 |①---| 口口口口 |----| ①②口口 |②---| 口口口口 |----| 7 口口口口 |①---| 口口口口 |----| 口口①② |②---| 口口口口 |----| 8 口口口口 |①---| 口口②① |----| 口口口口 |②---| 口口口口 |----| 9 口口口口 |①---| ②①口口 |----| 口口口口 |②---| 口口口口 |----| 10 口口口口 |①---| 口口口口 |----| ①②口口 |②---| 口口口口 |----| 11 口口口口 |①---| 口口口口 |----| 口口①② |②---| 口口口口 |----| 12 口口口口 |①---| 口口②① |----| 口口口口 |②---| 口口口口 |----| 13 口口口口 |①---| ②①口口 |----| 口口口口 |②---| 口口口口 |----| 14 ①②③④ |①---| 口口口口 |②---| 口口口口 |③---| 口口口口 |④---| 15 口口口口 |①---| ④③②① |②---| 口口口口 |③---| 口口口口 |④---| 16 口口口口 |①---| 口口口口 |②---| ①②③④ |③---| 口口口口 |④---| 17 口口口口 |①---| 口口口口 |②---| 口口口口 |③---| ④③②① |④---| 18 口口口口 |①---| 口口口口 |----| 口①①口 |----| 口口口口 |----| 19 口口口口 |①---| 口①①口 |----| 口口口口 |----| 口口口口 |----| 20 ①①①① |①---| 口口口口 |----| 口口口口 |----| 口口口口 |----| 21 口口口口 |----| 口口口口 |----| 口口口口 |----| 口口口口 |----| 22 ①②③④ |①---| 口口口口 |②---| 口口口口 |③---| 口口口口 |④---| 23 口口口口 |①---| ④③②① |②---| 口口口口 |③---| 口口口口 |④---| 24 口口口口 |①---| 口口口口 |②---| ①②③④ |③---| 口口口口 |④---| 25 口口口口 |①---| 口口口口 |②---| 口口口口 |③---| ④③②① |④---| 26 口口口口 |①---| 口口口口 |----| 口①①口 |----| 口口口口 |----| 27 口口口口 |①---| 口①①口 |----| 口口口口 |----| 口口口口 |----| 28 ①①①① |①---| 口口口口 |----| 口口口口 |----| 口口口口 |----| 29 口口口口 |----| 口②②口 |①---| 口①①口 |②---| 口口口口 |----| 30 ①口口① |①---| 口口口口 |----| 口口口口 |----| 口口口口 |----| 31 口口口口 |----| 口②②口 |①---| 口①①口 |②---| 口口口口 |----| 32 ①口口① |①---| 口口口口 |----| 口口口口 |----| 口口口口 |----| 33 口口口口 |----| 口①①口 |①---| 口②②口 |②---| 口口口口 |----| 34 ②口口② |①---| 口口口口 |----| 口口口口 |②---| ①口口① |----| 35 口①口口 |①---| 口②口口 |②---| 口③口口 |③---| 口④口口 |④---| 36 口口口口 |①---| ②口口① |----| 口口口口 |②---| 口口口口 |----| 37 口①①口 |①---| 口③③口 |②---| 口②②口 |③---| 口口口口 |----| 38 ①口口① |①---| 口口口口 |----| 口口口口 |----| 口口口口 |----| 39 口口口口 |----| 口②②口 |①---| 口①①口 |②---| 口口口口 |----| 40 ①口口① |①---| ②口口口 |----| 口口口口 |----| 口口口口 |②---| 41 口口口口 |①---| 口口口① |----| 口②②口 |②---| ③口口③ |--③-| 42 ①口口① |--①-| 口口口口 |----| ②口口口 |----| 口口口口 |②---| 43 口口④口 |①---| 口①口③ |②---| 口口②口 |③---| 口口口口 |④---| 44 口口口口 |①---| 口①①口 |--②-| 口②②口 |----| 口③③口 |③---| 45 ①口口① |①---| 口口口口 |----| 口口口口 |----| 口口口口 |----| 46 口口口口 |①---| ①②③④ |②---| 口口口口 |③---| 口口口口 |④---| 47 口①①口 |①---| 口口口口 |----| 口口口口 |----| 口口口口 |----| 48 口口口口 |①---| 口口口口 |②---| ④③②① |③---| 口口口口 |④---| 49 口①①口 |①---| 口口口口 |----| 口口口口 |----| 口口口口 |----| 50 口口口口 |①---| ①②③④ |②---| 口口口口 |③---| 口口口口 |④---| 51 口口口口 |①---| 口口口口 |②---| ④③②① |③---| 口口口口 |④---| 52 ②①①② |①---| ③口口③ |②---| ④口口④ |③---| 口口口口 |④---| 53 口②②口 |①---| 口口口口 |②---| 口③④口 |③---| 口①①口 |④---| 54 口口口口 |①---| ①②③④ |②---| 口口口口 |③---| 口口口口 |④---| 55 口①①口 |①---| 口口口口 |----| 口口口口 |----| 口口口口 |----| 56 口口口口 |①---| 口口口口 |②---| ④③②① |③---| 口口口口 |④---| 57 口①①口 |①---| 口口口口 |----| 口口口口 |----| 口口口口 |----| 58 口口口口 |①---| ①②③④ |②---| 口口口口 |③---| 口口口口 |④---| 59 口口口口 |①---| 口口口口 |②---| ④③②① |③---| 口口口口 |④---| 60 ①口口② |①---| ①口口② |--②-| ③口口口 |----| ③口口口 |③---| 61 口口口口 |--①-| 口③③口 |----| 口②②① |②---| 口口口① |③---| 不確定度 0